Hommage

 
「師の影」               洲崎新一郎 2007.1.20
  今、芳志戸さんのドイツルネッサンスの舞曲集を聴いています

なんと、温かく美しい演奏なのか

芳志戸さんの演奏スタイルは全く独特です

音を聴いていると、その透明感と力強く美しい響きに吸い込まれていきます

芳志戸さんが20代の頃よりレッスンを通じ目前で聴いた音ですが今でも新鮮です

師ほど思いが伝わる演奏をする演奏家は少ないのではないでしょうか?

芳志戸さんの演奏活動の基礎となっているのは

「破壊」と「創造」というキーワードだと思います

兎に角、人の真似をする事が大嫌いな人でした

といっても、偉大な先人達(セゴビア、イエペス、ブリーム、ジョン等々)

の演奏は聴いていましたし、他の楽器の音楽もよく聴いておりました

普通あこがれの演奏を聴くと、その演奏を少しだけでも真似できないか

と思うのですが、芳志戸さんは仮に感銘を受けた演奏でも一切真似をしません

それは自分にとって何等楽しいことではないからです

リサイタルの前には、一ケ月近く山にこもり都会の雑音を避け

精神を良い意味で緊張させます

そして楽譜とにらめっこして、総て白紙にて練習します

創造することを純粋に楽しめる人なのです

芳志戸さんがルネッサンス以前の作品をギターにアレンジしたり

三善晃氏、山岸磨夫氏、吉松隆氏、その他邦人の作品を多く取り上げる理由は

ギター界と社会的に意味のある事柄というよりも、まず自分自身の楽しみと

挑戦意欲からだと思います

現代作品に当時あまり興味のない私によく「これ、いいだろう」とか

「ねぇ、美しいと思わない!!」等とおっしゃって

色々な作品を弾いてくださいました

私はかつて芳志戸さんに依頼された初演の作品を、芳志戸さんの代役で

弾くことがあり大変苦労しました

フルートとギターのための曲でしたが、ただ音を出すだけで

どういった曲なのか理解できませんでした

フルートとの合わせは一回のみで、後は本番(青山タワーホール)、

何とか形にしましたが、猛練習したのを覚えています

「一度でもだれかの演奏を聴いていればなあ。。」

とその時思いました。ゼロから発想する事の難しさを痛感しました

芳志戸さんは敢てその事を楽しんでやれる人でした

今、若く優秀なギタリストが世界中に多くいます

以前は難局といわれた作品や、難しいパッセージを本当に簡単に弾いてのけます

余裕すら感じさせる程です

確実にギターのレベルは上がり、今後の可能性に大いに期待ができると思います

ただ苦言を呈するならば、上手く弾く人は確かに多くなったけど

自分の音、自分の演奏を感じさせる人はまだ少ないように思われます

もっと個性的であってほしいと思うのですが

やはり原点は「破壊」と「創造」ではないかと思います

どれだけその事に真摯に取り組むか、またその感性が有るかということが

問題になってくるのではないでしょうか

ピアノやヴァイオリン等の楽器の世界では既に通り越してきた道のように思います

プロならば誰でも弾ける

しかし良い演奏は限られている

ギターもその世界に近づいたと思います

芳志戸さんに「演奏する」とは、「音楽する」とは、何かと云う事を

すでに教えて頂いていたことを最近気が付きました

ただし自分にできるかどうかは、私の「感性」の問題ですが

   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
 

 

 

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